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もし投資した会社が赤字になったら
当該コラムは、2020年05月に「トレーダーズ・プレミアム」向けに掲載したものを加筆・修正しております。 「トレーダーズ・プレミアム」では定期的に新作コラムを掲載しております。 ぜひご加入をご検討ください。

もし投資した会社が赤字になったら

はじめに

 投資した会社が赤字になった場合は、まずどの段階で赤字になっているかに注目しましょう。 一般に損益計算書は、 売上総利益、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益、当期純利益(最終利益)の5つの利益に区分されます。売上総利益や営業利益の段階において赤字となっていれば深刻な状態と考えられます。 税金等調整前当期純利益、当期純利益の段階での赤字は、深刻ではないというわけではありませんが、一時的な要因による場合が多いといえます。
 今回、営業利益段階で赤字、税金等調整前当期純利益段階で赤字、当期純利益段階で赤字の場合でみるべきポイントをご紹介します。 なお、ここでは日本基準に基づき作成された損益計算書についてみていきます。

営業利益段階で赤字

 営業利益は、本業の利益といえます。この段階で赤字になるということは、本業がうまくいっていないということであり、ビジネスモデルが崩壊している可能性があります。 要因を大きく分ければ、「売上高が減少した」、「売上原価が増加した」、「販管費が増加した」となり、どれか1つが要因である場合もあれば、すべてが要因という場合もあります。
 営業利益段階で赤字の会社は、その要因をしっかりと分析し、今後の展望を予想しなければなりません。 会社の発表する収益改善プランを安易に信用するのは危険です。 もし、このような会社の株式を保有していた場合は、一度見切りをつけ、収益改善を一定期間ごとに確認しながら再度投資タイミングを探るべきと考えます。
 例外としては、要因が一時的な場合(一定期間の休業など)があります。 V字回復(翌期の黒字転換など)の確度が高いと判断できれば、下げたところは投資のチャンスになります。

税金等調整前当期純利益段階で赤字

 税金等調整前当期純利益段階で赤字になる場合は、特別損失を計上したと考えられます。 特別損失には、固定資産売却損、固定資産除却損、投資有価証券売却損、減損損失、災害損失などがあります。 それぞれの説明は省きますが、固定資産除却損と減損損失の違いだけみておきます。 固定資産を廃棄した場合などに生じた損失が固定資産除却損であり、収益性の低下などで一定額まで帳簿価額を減額した場合に生じた損失が減損損失です。 したがって、除却の場合は価値がなくなる、減損の場合はまだ価値が残っていると考えることができます。
 世界的に景気が悪くなると減損損失を計上する会社が多くなります。以下は、減損損失を計上した会社の一例です。

オンワードHD
(8016)
20.2期において、保有する店舗などの固定資産について減損損失277億5600万円を計上
マックスバリュ
西日本(8287)
20.2期4Qにおいて、店舗などに係る減損損失51億4500万円を計上

 なお、特別損失は毎年発生するようなものではありません。 その年にたまたま発生した損失の可能性が高いので、一時的に利益が大きく落ち込んでも、翌期は回復するケースが多くあります。

当期純利益段階で赤字

 ここで注目したいのは、税金等調整前当期純利益の段階で赤字の会社について、当期純利益の段階でさらに赤字が拡大する場合があるということです。 この赤字拡大は、多くの場合繰延税金資産の取り崩しが原因となります。
 繰延税金資産とは、会計上と税務上の差異に起因して発生するもので、簡単に言えば税金の先払い分といえます。 会社に納める税金があれば、そこから前払いした税金である繰延税金資産を差し引くことが可能です。 注目すべきは「会社に納める税金がある」という点です。 つまり、赤字の場合は基本的に税金を支払わないので差し引けません。 赤字に転落した場合は、繰延税金資産を取り崩す可能性が出てきます。 なお、繰延税金資産を取り崩した場合は、法人税等調整額として計上されます。
 以下は、減損損失を計上した会社として紹介したオンワードHD、マックスバリュ西日本です。 両社は減損損失の計上と同時に、繰延税金資産の取り崩しを行っています。

オンワードHD
(8016)
20.2期において、繰延税金資産を取り崩し、法人税等調整額135億4700万円を計上
マックスバリュ
西日本(8287)
20.2期4Qにおいて、繰延税金資産を取り崩し、法人税等調整額17億8100万円を計上

 上記の結果、オンワードHDは20.2期において税金等調整前当期純損益が376億円の赤字、当期純損益が521億円の赤字になりました。 マックスバリュ西日本は20.2期において税金等調整前当期純損益が30億円の赤字、当期純損益が53億円の赤字になりました。
 このように、繰延税金資産の取り崩しは赤字会社の赤字をさらに拡大させる要因となります。 業績の先行きに不透明感が高まったときなどには、繰延税金資産の額もチェックするようにしてください。

まとめ

 上場会社であれば赤字になったからといってすぐに倒産するようなことは少ないといえます。 特に、減損損失や繰延税金資産の取り崩しの場合は、基本的にキャッシュアウト(資金流出)を伴わないので、資金がショートする要因になることはありません。
 ただし、赤字になった要因に関しては吟味する必要があります。 要因が一時的なものであれば、保有継続も選択肢となりますが、そうでなければ早めに見切りをつけることも必要です。 業績悪化が続けば、市場変更(降格)や上場廃止のリスクも浮上します。 大きな赤字を計上した東芝やシャープは債務超過となり2部降格になりました。 2部降格が決定すると、株価指数連動投資信託からの売りなどが発生し、株価の下押し要因になります。
 赤字会社が復活すれば株価は大きく上昇することが多いため、投資対象として面白いと感じる人も多いでしょう。 ただし、それ相応のリスクがあることは認識しておくべきです。 赤字を出した企業をマネーゲーム目的で売り買いする投資家も一定数存在しますので、その会社のビジネス内容を理解せずに、値動きだけで近づくのは危険と考えます。

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