粗利率に着目してインフレ時代の勝ち組を探る
2021年から2022年にかけて、様々なモノの値段が上昇しました。そして、そのことが企業の業績にも大きな影響を与えています。そこで今回は、その影響の度合いを見定めるのに適した指標の一つである売上総利益率(粗利率)について解説します。
損益計算書において、売上高から売上原価を引いたものが売上総利益となります。粗利(あらり)と同義語で、ここでは粗利の方で話を進めていきます。この粗利から、販売費および一般管理費(販管費)を引いたものが営業利益となります。販管費を引く前の利益を見ることで、足元のように商品価格などが大きく変動している際に、その影響が業績にどの程度影響しているのかを推察することができます。
売上総利益(粗利) - 販売費及び一般管理費(販管費) = 営業利益
粗利に関しては、営業利益などと同様に、単純に金額を比較するよりも、売上高に対する比率で比較した方が、より企業の実体を表していると言えます。売上高に対する粗利の割合を見るのが粗利率で、以下の計算式で算出できます。
以下は三井松島ホールディングス(1518)の2023.3期1Q決算(2022年4月1日~6月30日)の決算データをもとに、利益率を前年同期と比較したものとなります。
(単位百万円) | 22.3期1Q | 23.3期1Q | 前年同期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 10,622 | 14,197 | 33.7%増 |
売上原価 | 7,644 | 8,523 | 11.5%増 |
売上総利益(粗利) | 2,977 | 5,674 | 90.6%増 |
粗利率(%) | 28.0 | 40.0 | |
販管費 | 1,932 | 2,179 | 12.8%増 |
販管費率(%) | 18.2 | 15.3 | |
営業利益 | 1,044 | 3,495 | 3.3倍 |
営業利益率(%) | 9.8 | 24.6 |
同社は石炭の生産・販売を手掛けており、昨今の石炭価格上昇で業績が急拡大しています。23.3期1Qでは、前年同期との比較で粗利率が28%から40%に大きく伸びています。石炭価格の上昇が業績に大きく貢献しています。一方で販管費を見ると、こちらはコストなので売上総利益から差し引く項目ですが、前年同期比で12.8%増と、粗利の伸び率(同90.6%増)に比べると上昇率が限定的となっています。結果、販管費率(売上高に占める販管費の割合)は前年同期と比べて低下(18.2%→15.3%)しています。利益が大きく伸びる中で販管費の伸びが抑制された結果、営業利益は3.3倍と大幅増となり、営業利益率は9.8%から24.6%へ急上昇しました。
以下は森永乳業(2264)の2023.3期1Q決算(2022年4月1日~6月30日)の決算データをもとに、利益率を前年同期と比較したものとなります。
(単位百万円) | 22.3期1Q | 23.3期1Q | 前年同期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 128,195 | 130,300 | 1.6%増 |
売上原価 | 95,237 | 100,324 | 5.3%増 |
売上総利益(粗利) | 32,957 | 29,975 | 9.0%減 |
粗利率(%) | 25.7 | 23.0 | |
販管費 | 23,103 | 23,686 | 2.5%増 |
販管費率(%) | 18.0 | 18.2 | |
営業利益 | 9,854 | 6,289 | 36.2%減 |
営業利益率(%) | 7.7 | 4.8 |
売上高は前年同期比で増加したものの、売上原価の伸び率の方が大きかったため、粗利は減少し、粗利率も25.7%から23.0%に低下しました。決算短信を見ると、利益面では原材料やエネルギー価格上昇の影響を大きく受けたとの記載がありました。販管費率は前年同期並みに抑えられましたが、粗利率が低下したため、営業利益率は急低下しました。
販管費は、業績が良い時でも悪い時でも一定程度は発生する費用となります。また、経営サイドでコントロールできる費用でもあります。業績が悪くなったからリストラなどを行ってコストを抑えることもありますし、逆に業績が非常に良くなっているからこそ、採用を強化するなどして先に向けた投資を行うということもあります。販管費の影響を排除した利益を見ることで、足元の事業環境が良いのか悪いのかを、よりダイレクトに把握することができます。
今回は物価上昇が追い風になる企業と向かい風になる企業の対比ということで三井松島と森永乳業を取り上げましたが、単純に粗利率が高いことが良い会社というわけではありません。粗利が増えても販管費も増加した場合には、営業利益の伸びは限られます。三井松島の販管費の伸びが抑えられているのは、日本で石炭を扱う企業が多くない中で需要が急増していることから、従業員一人あたりの生産性が大きく向上しているものと推測されます。
粗利や営業利益が前年同期比で減少した森永乳業も、製品の値上げや容量変更を発表していますので、先の利益率が改善に向かう期待はあります。ただし、値上げをした製品に関しては需要が減少する懸念もあるため、さらに原材料の上昇が続いた場合、それをそのまま価格転嫁し続けることができるかは難しいところです。
2022年8月時点では、まだインフレが沈静化しているとはいえない状況です。ここ1~2年では、市況価格が大きく上昇したことで、これまで物色の蚊帳の外にあった銘柄が脚光を浴びるといったことも見られました。その一方で、ディフェンシブ性が強いと思われていた銘柄がコスト高を吸収できずに利益が削られ、評価を下げるといった動きも見られます。ロシアとウクライナの軍事的緊張は長期化していますし、まだ多方面で多くのモノの価格が上がっていくと思われます。こういった局面では、営業利益だけでなく、粗利率にも着目しておいた方が、企業の変化により早く気づくことができると考えられます。追い風を受ける企業は、売上高の伸びが売上原価の伸びを上回る状況が続くかどうかが、株価を評価する上では重要となるでしょう。一方、向かい風となる企業は、粗利率の低下を回避できる策を打ち出すことができるかが重要になると思われます。