2つの営業利益~日本基準とIFRS~
会社の一定期間の経営成績を表すものが損益計算書です。 一般的な日本基準の損益計算書の利益をまとめると以下となります。
売上総利益 | 売上高から売上原価を差し引いたもので、粗利ともいいます |
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営業利益 | 売上総利益から販管費を差し引いたもので、本業のもうけといえます |
経常利益 | 営業利益に営業外収益をプラスし、営業外費用を差し引いたもので、本業に付随して発生する収益や費用を本業のもうけに加えたものです |
税引き前 当期純利益 |
経常利益に特別利益をプラスし、特別損失を差し引いたもので、一時的(臨時)に発生した利益や損失まで含んだ利益です |
当期純利益 | 税引き前当期純利益から税金など差し引いたもので、最終利益ともいいます |
このように日本基準の損益計算書では、「営業利益」が本業のもうけを示す利益となります。
現在、日本の上場会社には日本基準による開示を行う会社と、国際会計基準(以下、IFRS)による開示を行う会社が混在しています。
また、数は少ないですが米国基準による開示を行う会社もあります。
なお、今回は日本基準とIFRSを中心にみていきます。
要注意なのが、日本基準の「営業利益」とIFRSの「営業利益」は、名称は同じでも内容が異なるという点です。
そもそもIFRSには営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失の表示はありません。
金融取引に関連する項目などは除きますが基本的に営業外収益は「その他の収益」、営業外費用は「その他の費用」に分類されます。
特別利益、特別損失も同様です。
つまり、日本基準の「営業利益」には含まれない営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失が、IFRSの「営業利益」には含まれてしまうということです。
日本基準の「営業利益」とIFRSの「営業利益」は内容が異なるということは理解できたと思います。 したがって、IFRS適用会社の「営業利益」と日本基準で開示している会社の「営業利益」を比較することはできません。 これでは投資家にとって不便ですので、一部のIFRS適用会社は自主的に日本基準の「営業利益」と近い基準で算出した利益を開示しています。 以下、具体的な事例です。
アサヒ (2502) |
売上収益から売上原価および販管費を控除した恒常的な事業の業績を測る独自の利益指標として「事業利益」を開示 |
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日立製作所 (6501) |
IFRSの「営業利益」に代え、売上収益から売上原価および販管費を控除した「調整後営業利益」を開示 |
三菱ケミカル HD(4188) |
売上収益から売上原価および販管費を控除した「コア営業利益」を開示 |
このように、日本基準の「営業利益」とその構成内容がほぼ同じまたは近い利益であっても異なる名称で開示されています。
最近ではIFRSに基づく財務諸表を開示する会社も増えてきました。 具体的な社数は以下となります。
IFRS適用済会社 | 205社 |
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IFRS適用決定会社数 | 18社 |
合計 | 223社 |
上場企業へのIFRS強制適用は2015年に予定されていました。 しかし、震災の影響などで見送りになった経緯があります。 現時点ではいつから強制適用になるとは決まっていませんが、今後もIFRS適用済会社は増加していく可能性は高いと考えます。 そのため、企業の分析においては日本基準の「営業利益」とIFRSの「営業利益」は全く異なるものだという点を理解しておく必要があります。 同業の会社の比較でA社の営業利益率が10%、B社の営業利益率が12%であったとしても、A社が日本基準、B社はIFRSであった場合には、必ずしもB社の方が優れているということにはならないため、注意が必要です。