3つの利益で企業を比較しよう
投資する銘柄を選ぶとき、同業他社と比較することで各社の強み、弱みが見えてきます。よく使われるのが本業の稼ぎを示す営業利益での比較ですが、今回、営業外損益を含めた経常利益、特別損益と税金が絡む純利益に着目することで、比較時の視野を広げてみようと思います。会計基準によって計算項目が変わるため、本コラムでは日本基準を対象に比較を行います。
経常利益は、本業の稼ぎである営業利益に「営業外収益」「営業外費用」を反映させた利益です。為替差益(差損)、利息の支払い(受け取り)、受取配当金といった金融収支などの項目が含まれています。
純利益は、経常利益に対して一時的な損益である「特別利益」「特別損失」と法人税を反映させた利益です。連結会計の場合は「非支配株主に帰属する当期純利益」を最後に差し引くことで、その会社に最終的に残った利益である「親会社株主に帰属する当期純利益」となります。本コラムでは、連結会計において一般的な純利益の指標として使われる「親会社株主に帰属する当期純利益」を純利益として扱います。
営業利益・経常利益・純利益の3つを比較することで、本業以外にも各社の特徴がさらに分析できる場合があります。今回は、コロナ禍における巣ごもり特需を追い風に業績を伸ばした、スクウェア・エニックス・HD(9684)、カプコン(9697)、コーエーテクモHD(3635)のゲーム大手3社の2021年3月期業績を比較してみます。次の表では、各項目の売上高比率も掲載しています。
上の表を見ると、10%程度あると良いとされる売上高営業利益率(営業利益率)を3社とも超えていることが分かります。特にカプコンとコーエーテクモの営業利益率が高いですね。カプコンは売上原価率と販管費率が大きく改善したため、前年(28.0%)と比べて営業利益率が大きく上昇しました。
次に売上高経常利益率(経常利益率)を見てみると、営業利益率では横並びであったカプコンとコーエーテクモに大きく差が出ています。コーエーテクモの方は、カプコンよりも営業外収益がはるかに大きいですね。
コーエーテクモの2021年3月期の決算短信を見ると、受取利息49.55億円、受取配当金11.66億円、投資有価証券売却益106.49億円、デリバティブ損益17.92億円が営業外収益を大きく押し上げていることが分かりました。カプコンの方はこれらの収益が少ないため、経常利益で大きな差が生まれました。2021年3月期の決算でコーエーテクモの投資有価証券売却益や受取利息などが利益に大きく貢献したのも、株式市場が活況のなか積極的に証券投資を行っていたからだと分かります。
一見、コーエーテクモは本業以外にもプラスの要素があって良さそうに見えますが、スクエニとカプコンの経常利益率・純利益率がコーエーテクモと逆転することも十分にあり得えます。投資対象が値下がりした場合には利益が毀損するおそれもあることから、投資有価証券売却損益やデリバティブ損益の額が多いことはすなわち、業績の振れ幅が大きいともいえます。逆に、これらの金額が少ないということは、資金を本業に多く振り向けていると考えられます。株主からすれば、余剰資金を株式投資に回すより、事業拡大に向けた設備・開発に投じるか、配当・自社株買いのような株主還元に回してくれる方が嬉しいといった本音もあります。
機関投資家の側面もあるコーエーテクモの場合は営業外収益として経常利益に計上されていますが、子会社を売却するなど通常の企業活動では発生しないような臨時性があり、金額が巨額の場合には特別利益(特別損失)として計上するケースもあります。この場合、経常利益には影響がありませんが純利益が増減します。上述のゲーム3社ではスクエニの純利益率が相対的に低いですが、これは特別損失の計上が要因の一つになっています。同社はアミューズメント施設の運営も展開していたことから、コロナ禍における感染防止対策として臨時休業を実施しました。これに伴い「臨時休業等による損失」などを特別損失に計上したこともあり、純利益率を押し下げる格好となりました。
なお、特別損益は一時的に計上するものです。基本的に次期以降に続くものではないので、減損損失などによって特別損失を大きく計上した企業は、反動により次期の純利益が大きく改善する場合もあります。
昨今では、色々な投資テーマと、それに関連する銘柄がたくさんあります。世の中の時流に乗って本業の業績を伸ばせる期待ももちろんありますが、経常利益・純利益を見ることで、個々の企業が本業以外にどのような特長を持っているのか分析できます。例えば、総合商社はさまざまな会社に出資していたり、会社によっては鉱山や油田を持っていたりします。状況によっては減損損失を特別損失として計上するケースもあるため、純利益を見たほうがよいでしょう。不動産会社であれば、土地・建物を仕入れる借入金の金利負担が大きいため、支払利息を加味する経常利益を見るべきともいわれます。本コラムではゲーム3社を一例として取り挙げましたが、投資を考えている銘柄の3つの利益を分析することで新たな一面が発見できると思います。企業分析、他社比較をする際、いっそうのレベルアップを図れますので、ぜひ実践してみてください。