「方向性指数(DMI)」でトレンドの方向性と強弱を見極める~後編~
米国のJ.W.ワイルダー氏が開発したDMI(Directional Movement
Index)は、終値の比較を無視して、当日の高値・安値が前日の高値・安値と比べてどちらが大きいかを見極め、トレンドの「方向性」や「強弱」を判断する指標です。指標を構成する要素は、±DM、TR、±DI、DX、ADX、ADXRなどの中間指標があります。
前回の前編では、特定期間の上昇と下落を値幅面で相対比較することで、どちらの方向に優位に傾いているかを、±DM、TR、±DIを使ってトレンドの「方向性」を確認しました。DMとは、トレンドの方向に動いた値幅を表します。前日比の高値更新幅を+DM、前日比の安値更新幅を-DMとし、+DMと-DMの値の大きい方に相場が動いていると捉えます。そして、±DMと日々の変動幅であるTR(トゥルーレンジ)を比較したものを、+DI(上昇傾向)、-DI(下降傾向)と表現します。一般的には14日の平均値を使います(以下の計算式参照)。
-DI=-DMの14日単純移動平均÷ATR(TRの14日単純移動平均)×100
今回の後編では、トレンドの「強弱」を確認し、DMIの総合的な見方を解説いたします。
◇DXとは?
DXというトレンドの強度を測る指標は+DIと-DIから算出します。
DXは、狭義のDMIです。分子は+DI(上昇傾向)と-DI(下降傾向)の差、分母は両者の合計値であるため、上昇傾向と下落傾向が同じ値のときは、DX=「0」、いずれか一方が「0」となったときにはDX=「100」、それ以外の場合は中間の値となります。DXが「100」に接近した場合、上昇または下降のどちらかに強いトレンドが発生していることを示唆します。反対に、DXが「0」に接近した場合、上昇傾向と下落傾向が均衡しており、相場に方向感がないことを示唆します。
◇ADX、ADXRとは?
DXの14日平均を計算して、平準化したものをADXといいます。長期トレンドが下降しているときは、ADXの天井が価格の谷、ADXの谷が価格の天井に概ね一致します。逆に、長期トレンドが上昇しているときは、ADXと価格が概ね同じ時期に天井と底をつけます。
ADXをさらに平準化し、遅行指標にしたのがADXRです。ADXRは明確な方向性を示しますが、日々の極端な変動は反映しません。ワイルダー氏はADXRが20よりも小さいと価格変動の兆しがありと分析しています。また、ADXとADXRとの2本線の交差をトレンドの勢いが弱まりつつある、あるいは強まりつつあるシグナルとしてとらえることができます。
計算式
基本的な判断は、+DIが-DIを上回ったタイミングを買いシグナル、-DIが+DIを上回ったタイミングを売りシグナルとします。そして、この売買シグナルが出た後、2本の差が拡大する局面では上昇や下降のトレンド発生や勢いなどを判断します。さらに、トレンドの強弱を判断するために変動の大きさをみるDXを使います。ただし、DXでは振幅が大きく見づらくなるために、平均化したADXやADXRの位置関係などでトレンドの強弱を推しはかります。
<実例1>
図表1は、ソフトバンクグループ(9984)の日足チャートとDMI(14日)の推移です。±DIとADXが表示されています。2020年3月安値からの長い上昇トレンドの局面では、+DIが-DIを上回ったあとの拡大局面で、ADXの強い上昇がみられる箇所が上昇トレンドの強さを示しています。
<実例2>
図表2は、三井住友フィナンシャルグループ(8316)の日足チャートとDMI(14日)の推移です。2018年1月高値からの長い下降トレンドの局面では、-DIが+DIを上回ったあとの拡大局面で、ADXの強い上昇がみられる箇所が下降トレンドの強さを示しています。
ADXだけではなく、ADXRとの2本線の交差をトレンドの勢いが弱まりつつある、あるいは強まりつつあるシグナルとして使うこともできます。
このように、DMIは上昇、下降を問わず、トレンドが発生しているマーケットでは強みを発揮できます。しかし、+DIと-DIの差が縮小し、ADXやADXRが低水準で推移すると、頻繁に売買シグナルが発生し、『ダマシ』が増加する傾向が見られるなどの弱点もあります。『ダマシ』を回避するためには、価格の移動平均線の交差やパターン分析によるブレイクアウトなどを同時に確認することが重要でしょう。