指数リバランスってなに?
市場ではリバランスという言葉を聞くことがよくあります。株式市況の概要に関する記事などで「きょうは月末のリバランスによる需給で株式市場は軟調に推移した」といった説明がなされることは珍しくありません。当たり前のように出てくる言葉ですが、では「リバランス」とは一体何を行っているのでしょうか。今回のコラムでは、リバランスに関する説明と、そしてリバランスによる市場への影響を見越したうえで、リターンをあげるための投資アイデアについて取り上げたいと思います。
リバランスはさまざまな場面で使われますが、簡単に言うと自分のポートフォリオを銘柄のパフォーマンスや市場の動向に応じ調整することだと言えます。例えば、国内最大の運用主体である年金積立金管理運用独立行政法人、いわゆるGPIFでは、基本ポートフォリオを国内債券、外国債券、国内株式、外国株式をそれぞれ25%ずつ保有するとしています。このなかで国内株式が大幅に上昇し資産の35%を占めるようになった場合、国内株式を一部売却し、それ以外の資産を買い増しすることで、ポートフォリオの構成比率を一定に保つのです。
GPIF以外にもさまざまな投資家やファンドなどが随時リバランスを実施していますが、そのタイミングが月末などの節目になっていることが多く、そのため前述したように月末に一斉に株が売られたりする現象が起きると市場では認識されています。
このリバランスのなかでも、特に注目されるのが指数リバランス時です。世界的な株価指数MSCIは年に4回(2月・5月・8月・11月)定期見直しを実施します。MSCI指数は、一定の基準に従って選ばれた銘柄の組み合わせで構成されていますが、その組み入れられる銘柄や構成比率を変更するのです。指数に組み入れられる銘柄や構成比率が変更されると、それに連動する投資信託やETFなどのファンドが同じようにポートフォリオを調整する必要があります。これにより、組み入れ銘柄や構成比率が増える銘柄には買い需要が発生し、逆に減る銘柄には売り需要が発生することになるのです。
国際的な指数には上記のMSCIのほかFTSEなどもありますが、東京市場においては、やはりTOPIXも注目度の高い指数です。TOPIXでは、毎月指数に組み入れられている銘柄の浮動株比率(FFW=Free Float
Weight)を公表しています。この浮動株比率に応じて、前述したようにインデックスファンドはリバランスを実施します。浮動株が増加した銘柄は買い、減少した銘柄は売りとなり、その月の最終営業日の前日大引けに関連した需給が発生するとされています。
ここからは、特殊な需給を利用してリターンを獲得する投資アイデアについて説明したいと思います。まず考えられるのが、定期見直しなどによる銘柄入れ替えの発表日から入れ替え実施日までの期間において、組み入れ銘柄や構成比率が増える銘柄を買い、減る銘柄を売るという戦略です。決まった日に決まった銘柄を決まった金額だけ買う、ということが事前にわかっているわけですから、それを利用しようとするのはある意味で当然の戦略と言えるでしょう。
ただし、組み入れ銘柄を買い、除外銘柄を売る、という単純な手法だけでは思い通りのリターンを獲得できない場合もあります。MSCIに新規に採用、あるいは除外される銘柄が発表される時期は、証券会社から同内容にフォーカスしたレポートが出るくらい、近年では注目のイベントになりました。注目度が高くなったため、実際に発表される前から、今回はこの銘柄が採用されるだろう、という予想で上昇することもあります。そして実施日には、リバランスによる需給を先回りした売買が多すぎて、買い需要が発生するはずなのに株価は下落してしまう逆転現象が発生するケースもみられます。
これを避けるためには、25日平均出来高などを参照し、リバランスによる需給が発生する銘柄の普段の出来高と、足もとの出来高にどれぐらいかい離が発生しているかを確認することが有効です。例えば、普段の出来高の10倍の買い需要が発生すると期待される場合でも、銘柄入れ替えの発表から実施までの間に同20倍の買いが入っていたと推測される場合、リバランス実施当日はその買いを決済するための売りの圧力の方が強まり、株価は下落してしまう可能性が高いと判断できます。
反対に、市場では予想されていなかった銘柄が組み入れ、あるいは除外されたり、予想されていた銘柄が組み入れられなかった、あるいは除外されなかったといったサプライズがあったときは、事前に織り込んだ買いや売りがないため、直後の反応も大きくなります。
この織り込み済みを避けるという戦略は、リバランス実施当日においても有効です。インデックスファンドは、指数とのパフォーマンスの一致を追求し、ポートフォリオのトラッキングエラー(実際のパフォーマンスと指数のパフォーマンスとのずれ)を嫌うため、関連した需給は当日の大引けに集中する傾向にあります。そのため、各銘柄の板を監視し、引けに大きな注文が集まっている銘柄を確認することで、大引け時点で大きく値が動く可能性がある株を事前に見つけられる可能性があるのです。引け買い注文が売り注文を大きく上回っているような銘柄では、先回りしてザラ場に買いを入れておき、大引けで売り決済するよう注文をいれておく、あるいは引け売り注文が買い注文を大きく上回っているような銘柄では、先回りしてザラ場に売っておき、大引けで買い決済すれば、想定以上のリターンを得られることがあります。
近年、手数料の低下などからインデックスファンドの存在感はますます強まっており、東京市場のみにおいてもTOPIXをベンチマークとしたパッシブ連動資金は約85兆円あるとも言われています。いろいろな前提条件が変わることでこの数字については変わってくるものですが、本当に大きな規模の資金があり、それが株式市場に与える影響も大きくなっていることは確かでしょう。だからこそ、市場に大きな影響を与えるリバランスの仕組みをうまく利用し、投資機会につなげることの重要性も増していくことになると思います。ぜひ注目してみてください。