理論株価の基本を知ろう
「理論株価を算出できるようになりたい」と考える人は多いでしょう。今回はもっとも簡単な理論株価の計算方法をみていきます。簡単といっても基本となる重要なものとなります。
まず知っておくべきなのが、理論株価と目標株価の関係です。アナリストリポートには多くの場合、各アナリストの算出した目標株価が記載されます。この目標株価は、理論株価を土台にしていることが多いといえます。 しかし、アナリストの提示する目標株価には取材や分析による将来期待など、プラスアルファの要素が織り込まれていることもありますので、理論株価とはイコールではありません。
この算出方法で重要なことは予想EPSをいくらにするかと、PERを何倍にするかです。予想EPSについては、会社予想のEPSやアナリスト予想のEPSなどを参考にすることが多いです。PERについては、業種平均のPERやその銘柄の過去のPERなどを参考にすることが多いです。
【例】鹿島建設 (1812)
同社の21.3期の会社予想のEPSは156.07円、アナリスト予想(コンセンサス)のEPSは182.84円です(2020年9月4日時点)。この予想EPSに建設業の平均PER8.8倍(東証開示:2020年8月末現在単純PER)を乗じると、以下のように理論株価が計算できます。
会社予想EPS 156.07円×建設業の平均PER8.8倍=1373.4円
アナリスト予想EPS 182.84円×建設業の平均PER8.8倍=1609.0円
同社の2020年9月3日の終値は1306円でしたので、上記で計算した理論株価をどちらも下回っているという結果になりました。今度は過去のPERを使ってみます。なお、同社の過去2年の平均PERは8.1倍程度でした。
会社予想EPS 156.07円×過去2年平均PER8.1倍=1264.2円
アナリスト予想EPS 182.84円×過去2年平均PER8.1倍=1481.0円
今回は会社予想EPSを使用して計算した理論価格は終値1306円を下回り、アナリスト予想EPSを使用して計算した理論価格は終値1306円を上回りました。
この結果をどのようにとらえるかは判断が分かれるところですが、今回は過去2年平均PER8.1倍を同社にとって最適なPERと判断したとして話を進めていきます。そうすると「会社予想EPSは低すぎるが、アナリスト予想EPSは高すぎる」と投資家は認識しているという仮説を立てることができます。
では、投資家が考えるEPSを計算します。これは実際の株価をPERで割って求めることができます。なお、ここで求めるEPSを逆算EPSとします。
終値1306円÷過去2年平均PER8.1倍=逆算EPS161.23円
では、計算した逆算EPS161.23円と会社EPS156.07円を比較してみます。
{(逆算EPS161.23円÷会社EPS156.07円)-1}×100=3.3%
この結果、投資家は会社の予想EPSよりも3%程度高い水準を見込んでいると考えることができます。
ここで同社が業績予想の上方修正を行い、会社予想EPSが156.07円→170.0円に引き上げられたとします。投資家の見込みが変わらないとすれば、投資家の予想するEPSは170.0円より3%高い175.0円と計算できます。これを理論株価の式に当てはめると、以下となります。
投資家予想EPS175.0円×過去2年平均PER8.1倍=1417円
この結果、「上方修正後は1417円まで株価は上昇するのではないか」と予想することができます。
今回は、PER×予想EPSで理論株価を求める方法をみてきました。かなり簡易的な方法ではありますが、中身は結構奥深いものとなります。
PER、EPSとも高く見積もれば計算上は理論株価は高くなります。ただ、その数値が現実的なものではなかった場合、理論株価も絵に描いた餅となります。高いPERが許容されるには、その企業が属する業種の成長性が高い状態が続くことが求められます。高いEPSが許容されるには、四半期ごとに出てくる決算で成長が続いている、もしくは業績が急拡大する要素がある必要があります。逆に、理論株価を市場価格が大きく下回る銘柄は将来の大化け候補となる要素があるといえますので、さらに事業内容などを深く掘り下げていくと良いのではないかと考えます。理論株価を活用する上で大事なことは、「どのような数値を当てはめるかを試行錯誤すること」、「仮説検証しながらしっかりと考えること」にあります。